目的 完全主義傾向の高い者は、セルフ・ハンディキャッピング(以下SH)をとる傾向が高いとされている(Hobden,K & Pliter,P, 1995)。この2概念には、ポジティブとネガティブの両側面があり、例えば、自尊心との関係でそれらの側面が特徴づけられている(Ashby,J.S & Rice,K.G,2002 ; 丸本・高木,2003)。SHと完全主義との関係は、「遅延者(procrastinator)」においてみられるとされている(Ferrari,J. R, 1992)が、その関係はどのようものであるのだろうか。
本研究では、SHに「時間的な感覚」に関する内容を考慮し、大学生の達成困難な志望進路という場面において、完全主義傾向とSH生起動因との関係を自尊心の高群と低群の間で比較検討することを目的とする。
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方法 質問紙調査。調査対象者:大学生270名(男性138名,女性132名)、平均年齢20.81歳(SD=2.34)。調査内容:@場面想定法によるSH行動に関する尺度23項目6件法。場面:これから第一志望の進路に関与する試験を一ヶ月後に控えて受験勉強をしている場面を想定。この時期に限り、特に感じたり、考えたり、行動したりすることをイメージして、回答させた。測定項目:@SHS23項目(小口・沼崎,1990)を基に選出し、さらに予備調査で得られたものなどを加え、ワーディングしたもの、A自己志向的完全主義尺度(桜井・大谷,1997)20項目6件法、BRosenberg自尊感情尺度(山本真理子ほか,1982)10項目5件法を使用。
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結果と考察 自尊感情尺度の因子分析(主因子法・プロマックス回転)の結果、共通性の低い第8項目を除いた全9項目の合計得点の平均値(28点)で高群と低群に分けた(t(269)=20.59,p<.05)。次に、SH生起動因に関する尺度と自己志向的完全主義尺度をそれぞれ因子分析(主因子法・プロマックス回転)し、その結果、SHでは「情緒的不統制感」「時間的感覚の低さ」「完全性の追求」「課題への自己関与低減」「刹那主義傾向」の5因子と完全主義は「完全欲求」「ミスの過大視」「個人志向的高目標」「自己不信」の4因子が抽出された。それぞれ抽出された因子の合成得点を用いて、自尊心の高群と低群別にモデルを作成し、他集団で構造方程式モデルによるパス解析を行った結果、最も適合度の高かったモデルをFigure1,2に示した。まず、高群・低群の完全主義で4因子の合成得点間の関係が異なる可能性が予測される。SHの構造は「完全追求」からは、「時間的感覚の低さ」「刹那主義傾向」へ負のパスが有意である点(p<.001,低群:パス係数=-.18,p<.05)は、課題への準備に完全であることを求めないと計画性のある時間の使い方ができず、今さえ良ければいいという刹那的な思考から生じる。この過程は沼崎・小口(1990)の「やらない」因子を示唆した。「ミスの過大視」「自己不信」から「情緒的不統制感」へのパスは、自分のミスが気になり、また自己への行動に不信感をもつことから情緒が統制できないという「やれない」因子(沼崎・小口,1990)を示唆した。[Fig1自尊心低群]:「自己不信」から「時間的感覚の低さ」へのパス(p<.001)は、自己への行動に不信感をもつことから時間的な計画性的行動がとれない「やれない」SHを示唆した。「完全欲求」から「時間的感覚の低さ」への負のパス(p<.05)、「情緒的不統制感」から「時間的感覚の低さ」へのパス(p<.001)が有意であった。これは、完全性が計画的で時間的な感覚を低下させないこと、つまり、完全を求めることで時間的なことを把握した計画性のある課題への準備を行えることを予測している。反対に、情緒が統制できないと感じると時間的な感覚が低下し、計画的な準備が困難になることも示唆された。後者は、やりたくてもできないという獲得的SH生起へ繋がることが予測される。[Fig2自尊心高群]:「完全欲求」から「刹那主義傾向」へ、続いて「時間的感覚の低さ」へのパス(p<.001)、「刹那主義傾向」から「課題への自己関与低減」へのパス(p<.001)が有意であった。楽しくないことはやらないという刹那的、自己中心的な考え方が計画性のある時間的な感覚を欠如させ、課題への自己関与を低下させることを示唆する。これは、SH方略の敢えてやらない、努力低減を予測すると考えられる。以上の点から、自尊心高群と低群により、完全主義傾向との関係から、SH方略の生起動因が異なる可能性が予測された。
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